パクチーの王様



「えーっ。
 ご夫婦なんですかー?

 見えませんでした。
 なんだかよそよそしくてー」

 翌日の昼、大学が終わってからやってきた彬光《あきみつ》は、朗《ほが》らかな笑顔でそう言ってきた。

 なんだろう。
 可愛らしい笑顔で嫌味がないが、恐ろしいほど天然な予感がする、と厨房のテーブルで賄《まかな》いを食べながら、芽以は思っていた。

 いや、まあ、昨日の言動により、想像はついていたのだが……。

 なんで、そんなによそよそしいんですか? とか突っ込んで訊かれる前にと、芽以は立ち上がり、彬光に訊いた。

「水島くんはお昼、食べてきた?」

「あ、彬光でいいです。
 お昼は食べてきましたけど、美味しそうですねー」
と芽以たちが食べている賄いを覗き込み、笑顔で言う。

「僕、昨日、思ったんですよ。
 この店の料理、パクチー抜いたら、すごく美味しそうだなって」
と笑顔で言う……。

 いや、それ、私も思うんだけど、此処、パクチー専門店だからね……。
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