パクチーの王様


 結局、食事会には行かないことになった。

 逸人も乗り気ではなかったからだ。

 ただ、芽以が相馬のご両親に挨拶をまだしていないことが気になっていたので、営業終了後、少しだけ挨拶に行くことになった。

 逸人の指示で買ったご両親の好みの手土産を手に、夜道を歩く。

 店から、すぐ近くだからだ。

「パクチー持ってってやりゃよかったな。
 あいつら嫌いだから」
と逸人は笑う。

 いや、貴方、ご自分の親御さんになんの恨みがあるんですか、と思ったが、男の人ってこういう物言いなのかもな、とも思っていた。

 聖も両親に対して、辛辣なことを言ったりもするが、自分よりも親思いなところもある。

 なんだかんだで、近所に家建てたし、入り浸ってるもんな~と思う。

 しかし、相馬のご両親がパクチー嫌いということは、子どもの頃、逸人たちが、無理やり呑み込んだり、吐き出したりしたパクチーはご両親にとっても苦手なものだったのか、と気がついた。
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