パクチーの王様

 いや、と溜息まじりに言った逸人は、
「俺も今、心底そう思ってるところだ」
と言う。

「この間、圭太を邪険にして悪かったかな」
と何故か反省の弁を述べ始めた。

 彼の今後の人生が自分たちより遥かに過酷なものであることを今、実感したからだろう。

 逸人は冴え冴えと澄み渡る冷たい夜空を見上げ、
「帰るか」
と言ってきた。

 はい、と芽以は微笑む。

 なんかいいな、と思っていた。

 帰るか、と誰かに言われて、共に帰る暖かいおうち。

 その共に帰る相手が、逸人であるということが、より心を温かくしているような気もする。

 そんなことを考えながら、芽以は逸人と二人、凍てつく夜道を帰っていった。








< 336 / 555 >

この作品をシェア

pagetop