パクチーの王様



「……朴念仁だから、実はモテないんじゃと安心してました」

「あんた……、全部口から出てるわよ」
という芽以達の会話を聞きながら、逸人は、おや? と思っていた。

 さっきからの話の流れだと、まるで、芽以が俺のことを好きなように聞こえるんだが。

 目の前では、日向子が静になにかわめいていて、芽以がそれを止めていた。

 彼らが帰ってからは、彬光が失敗を繰り返しては、誤魔化すように笑っていたが、全然頭に入ってこなくて、

「大丈夫だ、問題ない」
という言葉を繰り返していたような気がする。

 そんな自分を芽以が、
 ……いえ、全然、大丈夫じゃないですよ、という目で見ていた。

 そして、帰り際、彬光が芽以に、
「マスターは我慢強いですね。
 前の店では、先輩も店長も、お前なんぞ、もう知らんってよく言ってたのにー」
と笑って言い、芽以が、

「それでも、二年も雇ってもらってたなんて、よっぽど気に入られてたんですよ、彬光くん」
と苦笑いして言っていた……

 ……ようだが、いまいち、記憶がない――。



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