パクチーの王様



 そんなこんなで誤解を残したまま、芽以が出社する十日を迎えた。

「じゃあ、今日は私は居ないから。
 彬光くん、よろしくね」
と芽以は不安を残しながらも、早めに来てくれた彬光にそう頼んだ。

「大丈夫だ、彬光。
 居てくれるだけでいいから」
と逸人が言うので、この人でも、ひとりでは心細いとかあるのだろうかな、とちょっと思ったのだが。

 単に猫の手も借りたい気持ちの表れだったのかもしれなかった。

 さすがにひとりで店を全部回すのは無理だろうから。

「そうですよね。
 居てくれるだけで違いますよね」

 芽以は不安を押し殺し、自分に言い聞かせるように、そう言った。

「水澄《みすみ》さんが嵐のときなんか、赤ちゃんでも居てくれるだけで違うって言ってましたし」

「芽以さん。
 全然、フォローになってません」
と彬光に言われたが。
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