パクチーの王様



 こうして通勤するのもあと少しか、と電車に揺られて会社に行った芽以は、ロッカーやデスクを片付けつつ、受付の仕事もした。

 デスクの隅から出てきた黄色い大きな付箋を眺めていると、めぐみが、
「あれっ? それ、どうしたんですか?
 古いみたいだけど」
と言ってくる。

「いや、引き継ぎのとき、よく先輩がこれに注意点書いて貼っといてくれたな、と思って、なんだか懐かしくて」
と呟くと、

「やめてください。
 なんだか寂しくなるじゃないですか……」
といつも陽気で軽いノリのめぐみが言い出した。

 すると、メモを取って、電話を切った千佳が振り向き、
「寂しいとか言わないでよ。
 私も寂しくなるじゃないのよーっ」
と叫び出す。

「此処、卒業するときは、一緒にと思ってたのにーっ」
とひしっ、と両脇から二人が抱きついてくる。

 今、お客さん来たら、何事だろうと思うだろうなと思っている途中で、既に、お客さんは来ていた。
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