社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 階段を上がりきったと同時に体を引くと、名取さんは「いや、つまりさあ」と右手で首の後ろを掻いた。反対の腕にはカバンとジャケットを持っている。

 薄手とはいえ、蒸し暑いこの時期にジャケットを着なきゃいけないというのは地獄だ。アパレル業界で比較的服装が自由といっても、やっぱりお客さんと顔を合わせるときにジャケットは必須らしい。

 私の今日の同行はたまたまだけど、しょっちゅうクライアント先に出向いている社長や名取さんは相当大変だろうなと考えていると、バッグの中でスマホが震えていることに気づいた。

「俺さ……思うんだけど、この気持ちって、前原ちゃんに恋――」

「あ、社長からだ」

「へ?」

「すみません、電話出ますね」

 ぽかんとしている名取さんに断って、私はスマホを耳に当てた。それと同時に鋭い声が頭蓋を揺らす。

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