君が夢から覚めるまで
1時間後、二人は近くのファミレスに向かい合って座っていた。
聞きたい事一杯あると言った割には怜は何も言ってこなかった。
暫く重い空気が漂う。
「あ、あの…カテキョのバイト休んでてごめんね。受験生に風邪うつしちゃいけないと思って…」
「本当に風邪だったの?」
「…うん…」
何だか責められてる気分になる。
仕方ない、ずっと隠していたのだから…。
「その怪我は?」
「これは、転んだの」
「誰にやられたの?」
怜が鋭い目で香帆を見る。
「桃華に押されて転んだんじゃないの?」
「違うよ…」
怜は知ってる…見てた?
そんな筈はないが…。
「どうして、彼女だって思ったの?」
「それは…」
怜は背もたれにドカッと背をつけ、溜息を吐いた。
「俺、桃華とは別れたんだ…」
「そう…」
やっぱり…。
「何で?って聞かないんだね…」
「それは…私が深入りすることじゃないから…」
「…そっか…」
ハハッ、と怜は口だけで笑った。
「でもだからと言って、桃華が香帆ちゃんを怪我させて良いわけないんだよ」
「これは、私が勝手に転んだだけ。彼女は関係ないよ」
「何で桃華を庇うんだよ!」
バンッと机を叩く。
「別に庇ってなんかないよ。…彼女の痛みは私も分かるから…。私の傷なんて時間が経てば元に戻るけど、彼女の心の傷はそんな簡単にはいかない。私と怜君のこと勘違いしてるみたいだったけど、怒りの矛先が向けれる相手がいるならそれでいいじゃない。誰かを恨んで、辛い思いをすり替えれるなら…」
香帆はスカートの裾をギュッと握りしめ、俯いた。
「香帆…ちゃん…?」
「彼女は怜君と過ごした楽しかった思い出に耐えなきゃいけないのよ。それを見るたびに、そこを通るたびに、それを思い出すんだよ!…誰かに当たってもいいじゃない…」
最後は少し涙声になっていた。
桃華の想いが、昔の自分と重なる。
好きなのに、まだこんなに好きなのに、どうしようもない想い…。


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