君が夢から覚めるまで
「そのピアス、彼女とお揃いなんだね」
家庭教師の時間が終わり、いつものように駅まで怜が送ってくれる。
駅までの道のりを歩きながら、お喋りに花が咲く。
いつも怜の左耳に付いてるピアスと同じ物が、昨日の彼女の右耳にも付いていた。
「あ〜これね。誕生日に彼女に貰ったやつ。俺、あんまりピアスとか興味なかったんだけどさ、付けろって言うから」
「それで開けたの?」
「貰ったから付けない訳にはいかないし…」
「へぇ〜凄い…愛されてるね、彼女」
羨ましい…。
そんな風にちょっとだけ思った。
「先生、彼氏は?」
「あは〜いたら、一人で買い物なんてしてないでしょ」
香帆は少し自虐的になって笑った。
「え、うそ〜先生可愛いから絶対モテるでしょ?」
「お世辞でも嬉しい。そんな事誰も言ってくれないから」
ハハッと香帆は笑った。
「え?本当にいないの?」
「いないよ」
「どれぐらい?」
「う〜ん…3ヶ月…経ってないかな」
「そうなんだ…なんで別れちゃったの?」
「それは…」
あまりプライベートの事まで聞かれたくない。
思い出したくない事まで思い出すからだ。
何のために、住み慣れた街を離れたのか…。
なのに…。
「昔、大好きだった人の事がどうしても忘れられなかったから」
どうして…怜に話してしまったんだろう…。
「誰?」
「高校の時に付き合ってた1個上の先輩。最初はお互いクラス委員やってて、そこで知り合って。2年の時は一緒に生徒会もやってて…」
何故…傷口を確かめるような事をしたのだろう…。
「何で別れたの?」
「彼が、高校卒業と同時に地元を離れることになって、バイバイって」
「でも、お互い好きなら遠距離でも出来たんじゃない?」
「…お互い、ならね。彼は待ってて欲しいって言わなかったの。だから、私も待つって言えなかった。それで終わり」
香帆はもう何ともないよ、と笑って見せた。
「…今でも好きなの?」
「…もう、思い出す事もないよ…」
そっか…と、怜は呟いた。
微妙に重い空気が流れる。
もうすぐ駅が見えてくる。
「…じゃあさ…好きな人は?」
終わったと思った質問がまた続いた。
「いたら、毎日が楽しいだろうなって思うよ。だから怜君が羨ましい」
「俺が?」
「そ。彼女とラブラブじゃん。だから、いいなって。じゃ、送ってくれてありがとう。また来週ね!」
怜が何かを言おうとしてたように見えたが、気付かないフリをしてそれを振り切った。
過去を喋り過ぎたことに若干動揺していた。
それを悟られぬよう、これ以上傷口をを見ないよう…。
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