ただ好きになっただけ。

リビングに戻ってソファに座り、もう一度スマートフォンを手に取る。

すると“もう少し遅くなるから”という、夫からのメッセージが届いていた。
こっちもか、と心の中でつぶやき、今度こそスマートフォンを手放し、
気を紛らわせるように明日の夕飯の支度に取りかかる。

昨年の4月から息子を保育園に預け、事務のパートを始めてからは
前日に翌日分の夕飯を作ることが日課となっている。

料理をしている時は、集中することで嫌なことも考えずにすみ、
良い息抜きにもなっている。

数品のおかずを作り、これから後片付けをしようというところで
玄関の鍵を開ける音がした。

「まだ起きてたんだ」

帰ってくるなりそう声をかけてきたのは結婚して数年になる夫、颯太。

早く寝たくてもやらなければならないことがあって寝られない、なんて
文句の一つも言ってやりたいところを抑え、おかえりなさいと返事をした。

息子が眠る寝室に行き、寝顔を眺めてから私と会話することもなく
颯太は自身の部屋へと向かった。

元々結婚前に同棲していたころから住んでいるこのアパートは、
狭いながらも夫婦それぞれに部屋が与えられている。

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