お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

「久城さん! 久城さん!」


小児科病棟の最深にある医局のドアが勢いよく開く。入って来たのは修矢と同じ大学出身の神崎誠(かんざき まこと)だった。
パーマのかかった神崎の栗色の髪が、ドアを閉めた拍子にふわりとなびく。

同じゼミの教授についたせいもあるが、修矢より三年後輩の神崎は大学時代からなにかにつけて修矢の周りにちょろちょろと現れ、子犬のようにまとわりついてくる。小児外科医として久城総合病院へ来たのも、修矢がいたからだ。

この院内で修矢を慕う、珍しい人間のひとり。仕事に対しては真面目だが、調子のいいところが玉に傷である。


「おい神崎、ここをどこだと思ってる? いつまでも大学と同じノリでいいと思うな」


少なくとも大騒ぎをする場所ではない。キャスター付きの椅子に座っていた修矢は、顔だけ神崎に向け軽く睨んだ。


「そうは言いますけどね、これが興奮せずにいられますか!」


修矢の注意をものともせず、神崎は空いている椅子を引っ張り修矢のそばに腰を下ろす。二重瞼の目をこれ以上ないほどに見開き、キャスターを滑らせて修矢との距離を一気に縮めた。

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