年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。

もう遅いしな…と迷いながら歩き出したところへスマホが鳴り出し、一気に現実に引き戻された。
実家の番号が表示されたディスプレーを見て小さく息を吐き、タップすると無愛想に声を発した。


「……もしもし、母さん」


不機嫌そうに電話に出ても、母は捲し立てるように話しかけてくる。
その上品だけれど甲高い声色を耳から離して聞き流し、今から帰る…と返事した。


「もう遅いし、先に休んでてもいいよ。夕飯も食べてしまってるから必要ない」


答えると、母はがっかりした様に「そう」と言う。
俺はその声に胸を痛ませながらも通話を切り、やれやれ…と再び大きく息を吐いて肩を落とした。


「今ので疲れが倍増したな」


これからその疲れが増す場所へ帰らないといけないのか。
こんな生活を後どのくらい続けなければいけないんだろう。


「俺には大型連休なんて要らないよ」


明日からが思いやられる、と考えながら足を引き摺る。
正月だけが、俺の本当の休日になりそうだ…と、望美の顔を思い出しながら帰路に着いた__。


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