年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
無言のままで立ち竦んでいると、彼女は私の方へ近寄って来る。

私よりも少し背の高い位置から眼差しを注ぎ、「お名前は?」と訊くもんだから、「小島望美です」と教えた。


「お勤めはしてらっしゃるの?」

「輝さんと同じ北芝電機に勤めておりますが」

「…あら、まあそう」


意味深そうに微笑まれ、勤めてちゃいけないの!?とムッとさせられる。
でも、彼女はそれを聞くと用事は済んだみたいで、「それでは失礼」と言い、背中を向けて歩き始めた。


私はその背中を見つめながら嫌味な人…と思い返す。
それよりもさっき聞いたことが頭の中を巡り始め、柱の陰に隠れたまま輝の姿を見直した。



(都築商事の御曹司?)


輝が?と思わずにはいれなかったけれど、言われてみれば、そうなのかもしれないとも感じた。

だって、輝は着ているものも持っている物も、全部ブランド品だもん。
スーツは絶対にフルオーダーメイドだろうし、靴だって、どう見ても本革に違いないと思うものを履いている。



(…でも、都築商事って…)


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