ドッペルゲンガー
赤井翠の話
俺、赤井翠(あかいみどり)は生まれつき耳が聞こえない。だから喋れない。人の口の動きで会話を読み取ることができる。

母から自分に双子の弟がいると知ったのは、中学生になってすぐのことだった。

母と俺の会ったことのない父は、俺と弟がまだ赤ちゃんだった頃に離婚し、俺は母に、弟は父に引き取られた。

生き別れた弟にずっと会いたかった。一卵性だと母は言ったので、自分と瓜二つなのだろう。

しかし弟がいる町は、俺の住んでいる町からずっと離れていて、会いに行きたくても会いに行けない距離だった。

もしかしたら、永遠に会えないかもしれない……。そんなことも考えていた。

そんな時、母が再婚した。相手は母の働いている会社の部長。

新しい父は転勤をすることになり、俺たち家族は引っ越すことになった。その町は何と……弟の住む町だった。

俺は嬉しくて、弟を必死で探した。

弟の知り合いとおぼしき人に何度も話しかけられた。でも、俺は何も言えなくてその度に不思議そうな顔をされた。
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