嘘の続きは
中学生から大学卒業するまでの実に10年に及ぶ私の恋はあの日、このオトコの冷酷な拒絶によって終わりを迎えた。
以来二度と会いたくないオトコだ。

あれから一度も会わなかったのに、なぜ私が来ると知っているのにこの人はここに現れたのか。

あの時に自分がひどく私のことを傷つけたという自覚がないんだろうか。

・・・まあ彼にとっては全てが大事な真紀のためなのだから真紀の付属品の私のことなどとるに足らない些細なことなんだろうけど。

デリカシーって言葉は知っていて欲しかったと思う。

不意に彼が顔を上げ、こちらを向いた。

ぱちんと目が合うと彼は一寸顔を引き締めた。

もちろんこの再会に笑顔を期待していたわけじゃないけど、オトコの硬い表情に胸がキリっと痛み出す。

「お待ちしていました。どうぞこちらへ」

そうして過去に聞いたことのない他人行儀な物言いで真紀の控え室の扉を開けて私が入るのを待つ仕草をした。

「はい」と返事はしたけれど、親しさの微塵もない彼の口調に更にカチンとしてこちらも無表情で無機質な声を出した。

親し気にして欲しかったわけじゃないけど、こんな冷たい態度もひどいんじゃないか。
心の中で舌打ちをした。

そっちがその気ならと表情筋を全て凍らせた硬い表情で彼の隣をすり抜けようとした時だった。耳元にそっと囁やかれた。

「久しぶり、朋花ちゃん」

あの頃と同じ心地良いテノールヴォイス。
動揺したところを見せたくないのに、いきなりのことにかっと顔が熱くなる。

くすっと笑われた気配にからかわれたと気が付き、キッときつい目を向けてみたが既にオトコはこちらを見ていない。

視線をかわされてしまい不愉快な気持ちをぶつけることができなくて、ムカムカとしながら何とか怒りを飲み込んだ。
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