時には優しく…微笑みを
少し眠った私の耳に、リビングでの話し声が聞こえてきた。

「……朋香ちゃんから聞いたけど、本当なの?彩奈と会ったって?」

「ん、あぁ。偶然な…」

「それ以上は聞いてないから、想像だけど、やり直そうとか言われたんでしょ?」

「…、分かるか?」

「当たり前でしょ、あの彩奈だもの。言うに決まってるわ、今の菅野君見たら」

「…っ、断ってもしつこくてさ。櫻井と一緒の所を見られて、何かあっても困るからさ…」

「拓海、お前さ、朋香ちゃんの事どう思ってるんだ?ただの部下じゃないだろ?」

「な、何言ってるんだよ。んな訳ないだろ。部下だよ、部下」

「いや、違うね。なぁ?結子もそう思っただろ?」

「……そうね。大事な部下なんでしょ。でも彩奈の事は、私もちょっと確かめておくわ」

「な、何を…。彩奈の事に関しては悪いな、佐々木」


そこまで聞いて私はまた眠ってしまった。


深夜に目が覚めた私は課長と一緒に戻ってきた。諒太さんと結子さんには、しっかり甘えるのよ、と送り出されて。

誰に甘えろと言うのか…
弱っている今なら大丈夫だから、と笑顔で送り出してくれた諒太さんだったけど。

今の私にそんな事が出来る訳もなく…
ありがとうございました、と課長に頭を下げて部屋へ入ろうとした。


「え?」

「櫻井…今日はこのまま…」

課長に抱きしめられていた。
< 54 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop