時には優しく…微笑みを
「ただな、俺がどれだけ厳しくしても、しがみついてきただろ。そんな櫻井を見ていて、俺の中で何かが変わったんだ。それが何か?って言われたら俺にも分からない。ただ気になる存在なのか、部下として目をかけてやろうと思っていたのか。今も答えは出ていない、ただ今回の事で櫻井が困っているなら俺が助けてやりたい、って思ったんだ。住む所がないなら、とここに来る事を提案したし、泣きたいと思っているなら泣かせてやりたい、って。それが上司としての立場を逸脱しているんだったら、そうなのかもしれないがな…勝手だろ?とにかく、心配なんだ。お前の事が」

「っ、課長…」

飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた私の手に、課長の手が重なった。

「…なんなんだろうな、この気持ちって。ただな、櫻井は入社してから変わってないよ。仕事に対しての姿勢と、俺との関わり方が。それが俺が一番居心地がいいと思ってるのかもしれないな」

「…課長。じゃ、やっぱり上司としてじゃないですか?私に目をかけてくれているのは、その延長じゃないですか?」

「さぁな。俺にも分からん。ここまで言ったんだから、その答えが分かるまで付き合えよ?分かったな?」

「へ?な、なんでですかっ!」

やっぱり鬼だ。
課長は、コーヒーを飲みながら笑っていた。


でも、今までどうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?って思ってた事に、少し答えが見えて安心していた。
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