月歌~GEKKA
三人で他愛のない話をしていると、しばらくして店長が奥様を迎えに来た。
杉野チーフも一緒に帰宅してしまい、にぎやかだった部屋が急に静かになる。
私が部屋に戻ると、携帯の音が鳴り響く。
誰だろう?と画面を見ると『森野さん』という表示で慌てて電話に出た。
「もしもし」
余りにも慌てて出たので、少し声が裏返る。
すると、電話の向こうで森野さんの笑う気配を感じた。
『元気そうだな』
低くて響く声に胸がドキドキと高鳴る。
「今日はありがとうございました。」
必死にお礼の言葉を絞り出すと、森野さんは
『別に…。それよりお前…』
そう言い掛けて
『三日間休むんだろう?こっちは気にしなくて良いから、ゆっくり休めよ』
と呟いた。
「なんか…森野さんが優しいの不気味です」
素直にお礼が言えなくて呟くと、森野さんは小さく笑っている気配にほっとする。
『あまり話してると疲れるだろうから、もう切るな』
ふいにそう言われて
「あの!」
と、思わず叫んだ。
『何?』
思わず叫んだものの、次の言葉が見つからない。
必死に言葉を探していると
『どうした?何もないなら切るぞ』
森野さんの言葉に
「森野さんからの電話、嬉しかったです」
必死に絞り出した言葉に赤面する。
(それって…好きって言ってるみたいじゃない!)
自分の言葉に真っ赤になっていると「ふ…」って笑い声が聞こえ
『バ~カ』
とだけ返事が返って来る。
『じゃあ、もう本当に切るな』
そう言われて切なくなる。
気持を必死に切り替えていると
『おやすみ』
と言う森野さんの声が聞こえた。
「え…!あ、はい!おやすみなさい…です!」
思わず動揺して叫ぶと
『うるせえよ、お前の声。ったく、病人なんだからさっさと寝ろよ』
と言うと、電話が切れてしまった。
『ツーツーツー』
電話の無機質な機械音に切なくなる。
電話が嬉しかった分、切れた後が物凄く寂しい。
今、聞いたばかりなのに、もう声が聴きたくなる。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう?
私はベッドに横になりながら、ドキドキと高鳴る胸を押える。
寝ようと目を閉じると『おやすみ』の声に目が冴える。
好きな人の何でもない言葉が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
「森野さんの馬鹿。三日間会えなのが、もっと切なくなっちゃったよ」
ポツリと呟いて布団を頭までかぶって目を閉じた。
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