空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「無理」

彼はフロントに目を向けたまま表情を変えずに答えた。

なぜだかその横顔に胸がキュッと締め付けられる。

まるであの絵を初めて見た時の衝撃みたいに。

もうそれ以上私には拒む理由がみつからなかった。

もし悪い人だったとしても、ついてきた自分が悪いんだ。

なぜだかそんな気持ちになり、半ばあきらめた気持ちで座席に深く座り直した。

「断念した?」

彼は口もとを緩めて言った。

「まぁ、断念っていうのでもないけれど」

結局はいつも彼の思い通りになっていく。

だけどそれは私がそうしたいから。

無理矢理そうなっている訳じゃない。

そんな気持ちにさせるのは、一種の彼の才能じゃないかと感心する。

「食事ってどこまで行くの?」

既に辺りは暗闇が迫っていた。

街のネオンが明るく路上を照らしている。

「もうすぐ着くよ。遅くなっても家まで送り届けるから安心して」

「遅くならないから大丈夫です」

そう言った私の言葉に反応するように吉丸さんはくすっと笑った。

車はしばらく国道を走り、街のど真ん中にそびえ立つ大きなホテルの地下に入って行く。

そして、地下駐車場に車は停車した。
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