空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
シャーっというシャワーの心地よくも激しい音が自分の動揺を流し去ってくれるだろう。

それなのに、目をつむった彼の唇が「すきだよ」ってささやく場面が繰り返し頭に浮かんでは消えていく。

それは、目を開けて言われるよりも生々しくて心に迫ってきた。

このままじゃ、普通の顔をして醍と話せない。

なんとしてもさっきの記憶を消し去らなくちゃ。

シャワーの蛇口をひねりその勢いを止め、目をつむると大きく深呼吸をしてバスルームから出た。

ひんやりとした空気が一気に私の火照った体を冷やす。
ふかふかのバスタオルにくるまれたまま手早く着替えると自分の部屋に直行した。

本当はリビングで寝ている醍を起こしてあげたいけど、今はまだ平静でいられない自分を彼の前にさらけ出すことが躊躇われる。

部屋に入る前、ちらっとリビングに目を向けると、まだ起きてくる気配はなかった。

少しだけホッとして自分の部屋の扉を閉める。

ベッドの上に座った途端、一気に緊張がほぐれていく。

どうしてこんなにも緊張するの?ただの寝言なのに。

ふと、明日の仕事は休みだったことを思い出し、スケジュール帳を開けると明日の予定には『醍と』と記入していた。

あ。

そういえば、次の休みの日、醍が自分のお気に入りの場所に連れていってくれると約束していたっけ。

っていうことは、私一人が明日は緊張して過ごさないといけないんだ。

彼にとってはただの寝言であって、意識のない中での告白だから。




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