総長さんが甘やかしてくる③


しかし燐のおかげで

張り詰めた空気が、ほんの少し和んだ。


「いいか。10分たって出てこなかったら、ここから離れろ」

「えー、ボクも一緒に楽しみたいよ」

「あくまで説得に行く。幻を連れ戻すのが最優先だ。あとは。木良も」

「はあ? 木良も? なんで?」


カスミとの約束だからって言うと説明を求められそうだな。

そんな悠長なことしていられない。


イヤな予感がする。


「燐は、ユウを。それから、カスミを守ってやれ」


俺の言葉にカスミが目を見開く。


「あたしも行かせて!」

「駄目だ」

「なんで」

「呑み込んでくれ。君は、強い。だが、本気でない俺にすら力でかなわなかった」


容易に傷つけられる。


「……っ」


言い返す言葉がなくなった少女が、唇を噛みしめる。


「愁、携帯ボクに繋いでおいて」


――――!


「大人しく待ってるから。ね?」

「わかった」


スマホをポケットから取り出し燐に発信すると、ポケットに戻した。

これで向こうでの会話は燐に――ここにいる全員に届くはずだ。


「行ってくる」

「無事に連れてきてくれなきゃ恨むから」

と、カスミ。

「ありがとう」

「はあ?」

「案内してくれた礼。言ってなかったなと思って」

「……別にっ」

「俺が困るようなお願いとやらでも考えて待っていれば。少しは気が紛れるかもしれないな」

「バカ。アンタもちゃんと戻って来ないと、許さないから」

「言われなくても。戻るさ」

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