溺愛彼氏

「悪戯したいので」










通り過ぎていくスーパーも、コンビニもアパレルショップもみんなハロウィンの飾り付けが施されている帰り道。

そんな中、もみじくんから送られてきたメッセージ。
ハロウィンなんて興味のなさそうなもみじくんがいきなり「トリックオアトリート」だなんて言ってくるから、なんだ可愛いではないか。とひとりスマホの画面を見てにやけてしまう。

けれどお菓子でも買って帰って一緒に食べたいななんて思っていたのは束の間。












突然拒否を示す文面が送られてきた。
え、もはや別人が送ってきたのではないか?というくらいに一瞬の変わり身で。

なんだなんだと思うけれど、仕方がない。と、そのまま直行で家に向かう。いらないのならばあんなことを言わなければいいじゃないか。と思うのは私だけだろうか。

帰ったら絶対にトリックオアトリートを言い返してやる。そして悪戯をしてやる。くすぐりの刑でお腹をよじらせて苦しめばいいのだ。なんて、しょうもない作戦を立てた。



家に着き扉を開ければ、ソファに体を預けて「おかえり」と迎えてくれるもみじくん。


「ただいまです」

「どこにも寄って来なかったですか?」

「はい」


楽しそうに笑うもみじくんをじっと見つめ。よし、これからくすぐりの刑に処する!と勢いよく唇を開いた。


「もみじくん!トリックオアトリート!」

「え、あ、じゃあ、はいこれ」


あれ?けれど私の盛大のトリックオアトリートも虚しく、するりともみじくんは私にポッキーの箱を差し出してくる。


「ポッキー……」

「うん。あんずがトリックオアトリートって言ったからお菓子あげようと思って買ってきました」


この人はいったいなんなんだ?という視線を向ければ口角を上げてくすりと微笑むもみじくん。




「あんず、トリックオアトリート」



その言葉に私はぎょっとした。


「え、もみじくんがなにも買ってくるなって言ったので」

「うん」

「なにも持って、ないのですが」

「うん」

「……え?」


なんだか妙に嬉しそうなもみじくんの表情が怖い。


「トリックオアトリート」

「……あの」



「お菓子がないなら仕方がないですね」



その言葉に、私は悟った。あぁ、この人にハメられたのだと。
本当に狡い人だ。









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