わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

「一花さん」

聞き慣れた声で名前を呼ばれて一花は足を止めた。でも、振り返りはしなかった。

待つまでもなく、声の主が横に立つ。

「僕も帰るので途中まで一緒にいいですか」

「……別にいいのに、送らなくても。せっかくだから皆ともっと楽しんだらいいのに」

ぼそっと言うと榛瑠は横に並んで歩きながら言った。

「僕も明日仕事ですからね、もう帰ります」

そっか、と呟いて一花は黙る。クリスマスの電飾で通りは明るかった。駅まで続くメイン通りはいつもより人も多い気がする。

何気に空を見上げると、曇ってもいないのに、ぬめっとした暗い夜空があるばかりだった。

一花はどこかにこの空と同じような心の重たさを感じたまま黙って歩いた。隣をやはり黙って榛瑠が歩く。

パーティーは楽しかった。他の皆も、榛瑠も楽しそうだった。でも……。

もし、榛瑠とただの友人か幼馴染だったら、こんな心の重さは持たなくて済んだのだろう。吹子様や他の人のように。今の彼でいけないことは何にも本当はないのだから。

「ここは空が暗い街ですね」

不意に榛瑠が言った。視線が上を向いている。吐く息がうっすらと白く見える。

「……いいのよ、代わりに地上が明るいんだから」

そう、一花はぶっきらぼうに答える。店や、樹々の電飾や街灯の偽物のような光で昼間のようなんだから。

そうだね、と言って彼も黙った。

一花は感じ悪いな、私、と思いつつ、正直もうどう距離をとっていいかすっかりわからなくなっていた。
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