わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「しつちょー、あたし今から有給使うのでよろしく。期限はわかんないです」

「有給?何言ってるの、君、そんなの残ってないよ」

室長はおっとりと言う。

「はあ?そうなの?じゃあ、欠勤で。あ、いいや、もうめんどくさいし、退職で」

「そうか、じゃあ、辞表出してくれる?あ、提出書類とかきっとあるよねえ、総務に聞いてみないと」

「あ?なに、めんどい。もう、行方不明でいいわ。それじゃ」

そう言って部屋を出て行こうとする美園に慌てて一花は声をかけた。

「ちょっと、待って、美園さん。そんな乱暴な」

美園はちらっと視線をよこしたがそのまま一花を無視して出て行く。

「待って……。ああ、もう。すみません、室長、今の話、無しでお願いします」

「僕はどっちでも良いんですけどねえ」

一花はニコニコしている彼に軽く頭を下げると美園を追った。

「美園さん!」

美園は足を止めない。一花は走って追いつくと彼女の腕を掴んだ。

「待ってってば」

「何よ」

美園は乱暴に一花の手を振りほどく。

「だから、辞めないでいいから」

「あんたに関係ないし。あんたはあんたで好きにすれば良いでしょ。あたしはあたしで……」

「そうじゃなくて。聞いて。あのね、外国で入院して身動き取れないなら絶対誰か近くにいた方がいいと思うの」

美園が明らかにイライラした視線を向けてくる。一花は気にせず話を続けた。

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