わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
そういう意味では吹子様とこうしているのも不思議だな、と一花は目の前で美味しそうに食事をしている美しい人に目を向けた。

元々は高校時代の榛瑠の友人で、三つ違いだから同じ校舎で学んだこともないのに、なぜか親しくしてくれて。それは榛瑠がアメリカ行った後も変わらず、というより、むしろそれからより仲良くしてくれて。

今では親の会社の優秀な幹部として働く多忙な吹子とそう会えるわけでもない。でも、連絡はとっていて、先日、つい榛瑠の“彼女”の件で愚痴ったら吹子の方から時間を作ってくれたのだった。

「でも、以前の彼からするとちょっと意外ね」

「そう思いますか?」

一花はコロッケを口に運びながら相槌を打った。

「ええ。榛瑠って相手はコロコロ変えても二股はしない主義だったし、相手に無駄な希望を与えるような付き合い方はしなかったのに。やってることがクリアじゃないわ。やっぱり記憶と性格って連動しているものなのかしらね」

「なんだか、全然希望が見えて来ないんですけど。って、やっぱりコロコロ変えてた時期があったんですね」

「まあね。相手がいくらでも寄ってくるしね、仕方がなかったと思うわよ。高校生の頃は人の好き嫌いも激しかったし、今思うと別人よね」

「そう思います?変わったって?」

「表面上はね」

一花はつい笑ってしまった。

「吹子様にかかると榛瑠も形無しですね」

「様は余分よ、一花様?」

吹子がにっこり笑って一花を見た。嫌味のない花のような笑顔だ。切れ長の意思のある目ときっぱりとした口元。それでいて抜け感があって決してギスギスしてない。友人でありながら憧れの人でもある。

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