わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「あら、わかってるんだ。来てくれてなんだけど、どうしてきたの?」

「とりあえず試しているんですよ」

「試す?何を?」

「いろいろ」

そう言って榛瑠は微笑んだ。

ああ、この男にとって、いまの私は、というより多分あらゆるものが、敵か味方かの判定中なのだろうな、と吹子は思った。それなら、わからなくもない。でもその中に一花ちゃんがいるのはあんまりだ。

「やっぱり殴られればいいのよ」ため息とともに吹子は言った。「以前のあなたに。そうじゃないと……」

そうじゃないと、榛瑠自身がかわいそうだ。

吹子はその言葉を最後まで言うことができなかった。一花がそろそろ出ようと二人に声をかけたからだ。

ノコに長居したことのお詫びと、すっかり仲良くなった彼女にまた来る約束をして、吹子は店を出た。

明るい日差しに反して、外は冷たい風が吹いていた。体が緊張する。

「風が出てきましたね」一花が吹子に言った。「今日はありがとうございました。吹子様とお話しできて楽しかったです」

「ええ、私もよ」

榛瑠なんて呼なければよかった。そしたらもっと楽しかったろう。私もまだまだ判断が甘いわ。

それでも榛瑠に一花を送るように言うと、彼は当たり前のように承諾した。

吹子は二人と別れると、しばらく通りを一人で歩いた。

風が冷たい。いつのまにか冬だ。春は遠いなあ、とコートの襟を立てながら吹子は思った。

< 53 / 172 >

この作品をシェア

pagetop