わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
笑顔が固まる一花からスプーンを取り上げると、まだ残っているプリンを掬ってにっこり笑いながら一花に差し出す。

「はい、どうぞ」

どうぞって、言われても!

仕方なしに口を開ける。甘くて美味しいものが口に広がる。……なにこれ、想像以上に恥ずかしいんですけど。

が、またスプーンを差し出される。

「も、もういいってば。自分で食べるから!」

「だめ。はい、口開けて」

だんだん味がわからなくなる。口の中に甘さだけが残っていく。なんだか変な感じ。

そんな一花を見て、今度は榛瑠が笑った。

一花は拗ねながらもスプーンを取り返すと残りを食べ終わる。

「ごちそうさま。美味しかったです」

榛瑠が皿を片付けて、ついでに自分のカップにコーヒーを再び入れて戻ってくる。

「美味しかったけど」一花は紅茶を飲みながら言った。「やっぱり榛瑠が作ってくれたのが一番好き。特にプリンは」

「帰ったらまた作ります」

「うん……。海外出張の準備もう済んだの?」

「ほぼ終わりました。後はいつもの仕事の引き継ぎが少々残っているぐらいかな」

「大変そうだね。結構、今回長いんだよね」

「約二週間です。今回は早川さんが来ないから他のメンバーがちょっとバタついてましたね。普段が頼りすぎなんですよ」

早川さんと言うのは、社長付きの秘書の30代の女性だ。すっごく美人で何より仕事のできる女性だ。
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