その誕生日はきっと誰かの特別な日。
終わってしまった特別な日。
「ただいま。」

誰も応えてくれるわけではないけど。
当たり前だ、お帰りなんて言う物体は賢いロボットか、空き巣か。

ちょっとだけロボットはいる。
会社の夏の暑気払いの飲み会で当たった丸いお掃除ロボットがいる。
私の留守の間に狭い空間をクルクル動いてると思う。
本当に狭すぎてつまらないかも。

一人暮らしのこの部屋には贅沢な一品だ。

皆が羨ましいと言った。
みんな一人暮らしなのに。
ここより少し広い部屋に住んでるかもしれないけど、似た感じだろう。

「ただいま。」

そう声をかけてみた。
帰巣本能は強いけど喋ってはくれない。
ボタンを押さないとずっと眠ってる状態だ。


携帯を見たら実家からも連絡があった。
両親からおめでとうのメッセージと写真があった。
私より楽しそうじゃない。

だって二人がやっと子供に会えた日だから。
だから二人はその日の古い記憶を今年も語れるかもしれない。
今までもその特別な日を毎年祝ってくれてたんだと思う。
記憶にはないけど写真があった。
ケーキとご飯、頭には王冠とか、おしゃれなワンピースを着た私。
私にとって特別な日、そして両親にとっても特別な日。
そんな日を思い出してるかもしれない。

いつごろか、友達と祝うようになり、その日に家族でケーキを食べることもなくなった。
その代わりに週末にちゃんと祝ってもらった。

そんな思い出になって来て、とうとう両親だけが祝ってくれる日になった。

ちょっと今年は悲しい気分の日になったけど、これからだってずっと繰り返されるから。
たまにはそんな年があってもしょうがない。


里佳子からもメッセージが来てた。
一番の仲良しなのに、今日の予定も聞かれなかった。
少し、せめてケーキくらい一緒に食べてくれてもよくない?



『どう?いい誕生日になったでしょう?』
『明日聞くね。お休み。』


お風呂に入ってる時にそう連絡してきたみたい。

何を話せと言うんだろう?
だって誰にも誘われなくて、予定も聞かれなくて一人で帰ったじゃない。
彼氏がいないの知ってるくせに。
暇だって想像できただろうに。


何も話すことがない。

返事せずにそのままベッドに潜り込んだ。
お酒を二杯飲んでいたから、いい具合に眠れたみたい。
あっという間に特別な夜も終わっていた。
< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop