二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
水族館の隣は、小さな噴水がある公園になっていて、涼しい水族館の中とは違い、強い夏の日差しが直に感じられるこの場所は、立ち寄る人は多くはない。
芽衣は、少しだけ木陰になっている公園のベンチまでやってくると、いきなり座り込んでしまった。

「もしかして、気分悪くさせてしまった?」

まさか、泣かせてしまったのか? 学の心に動揺が走った時、俯いたままの芽衣が、くつくつと笑い出した。

「……びっくりしました。本当に!! 心臓が壊れるかと思った」

そう言って久々に顔を上げた芽衣は、おかしくてたまらないと、涙目になりながら、お腹を抱えて笑いはじめる。

「怒ってないの?」
「怒ってません。ただ、本当に驚いて……」
「……ごめん」

学は、改めて心から謝罪した。初デートで了承なしに唇を奪い、公衆の面前で告白……。こんな予定ではなかったのに、彼女の前だと、理性というものが何処かにいってしまう。

「内田さんて、意外に大胆なんですね」
「いや、そんな事ない、今日は特別。あの、怒ってないって事は、さっきの返事は?」

学は、芽衣がイエスと言って、微笑んでくれるものだと思い込んでいた。しかし予想に反して、芽衣の表情が曇っていく。

「私でいいんですか?」
「……え?」
「私、すごく貧乏なんです」

急に改まって、そんな事を言う彼女の心情を測りかねた。芽衣が苦学生で、働きながら一人で生活している事など百も承知だ。本当はもう少し込み入った彼女の事情も知ってはいるのだが、どちらにしても、二人の交際の妨げになるようなものは何もない。
少なくとも学はそう思っているのが、芽衣は違うようだった。

「仕事も学校もあるし、日々の生活で精一杯でどこかに遊びにいく余裕もないし、身につけているものも安物ばかりで……なんて言うか、私じゃ釣り合わない気がして」
「僕は君がいい。君じゃないとだめなんだ……君は僕じゃ不満?」

学は芽衣の華奢な肩に触れ、自らの身体に引き寄せた。自分の腕の中で、芽衣が小さく首を横に振ったのが伝わると、安堵と幸福感に包まれはじめる。

学は気付いていなかった。この時、芽衣の表情が不安に覆われていた事を。
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