約束の白いバラ





「漣夏、帰ろ」

初音に声を掛けられて鞄を肩にかけて席を立った。
また明日ね、バイバイ、なんて友達と挨拶を交わしてクラスを出る。
駅に向かって歩いていると、目の前の路地から如何にも悪そうな人達が出てきた。沢山のネックレスやピアスをつけ、タバコを咥えている。金髪や赤髪に、チャラチャラとした雰囲気。

「姉ちゃん達可愛いじゃん、オレらと遊ぼーよ」

何てどこにでもありそうなセリフと共に腕を掴まれる。遊ぼーよ、なんて言いながら拒否権はなく、強く腕を引かれる。

「何するのお前ら!離してよ!!」

初音は強く腕を振り払って構えの姿勢をとる。彼女はアメリカで総合格闘技と言うものを習っていた。護衛術に長けていてとても強い。

「んだよこのガキ」

男達は一斉に目の色を変えた。私は焦って初音に手を伸ばそうとするけれど後ろから腕を掴まれていて初音には届かない。

「うるせぇよ、お前らなんか怖くもなんともないから纏めて掛かってくるね、相手してやるよ」

初音の綺麗な瞳が彼らを見据えて煌めいている。そうだ、彼女はこういう子だった。
今にも男達が初音に襲いかかろうとした時に…

「てめぇら何してんだよ」

地を這うようなドスの効いた声が背後から聞こえた。男達は手を止めてそちらを振り向く。私も首をそちらへ向ける。
後ろは使われていないビルのようだった。二階の窓が割られて空いていた。そしてそこに一人の男が座っていた。
サラサラの黒髪は、太陽の光を反射して紫色に輝いている。長めの前髪から覗く切れ長の大きな瞳は深い翡翠色で、射るような鋭い目付きだ。高く通った鼻筋に薄い唇。どこまでも冷たく氷のような印象を持たせる。学ランは羽織っただけで、中に深い紫色のインナーを着ていた。
一瞬で目を奪われて、自分の置かれた状況もすっかり忘れ彼をじっと見つめる。

「何してんだって聞いてんだ。早く答えろ」

「お、お前は誰だよ!!」

彼の目付きにすっかり思考回路を奪われていた男はやっとの事で声を発する。
その声はさっきまでの威勢はどこへやら、すっかり弱々しく虚勢を張っているだけだった。

「あぁ?知らねぇでこんな所に来たのかよてめぇら」

良い度胸してんなぁ、褒めてやるよ、なんて言って言葉とは裏腹に薄い唇の端を持ち上げ冷たい笑みを浮かべた。
その場にいた全員が息を飲み込んだ。何も言えなくなった男達に彼は、呆れたように笑みを浮かべたまま言った。

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