死席簿〜返事をしなければ即、死亡


鼻が折れているかもしれない。


止めどなく溢れてくる血を【出席簿】で受け止めながら、職員室まで急いで戻った。


「うわっ、今井先生!なんですかそれ」


教員たちが一斉に、黴菌でも見るように身を引く。


「また揉め事ですか?」


「今井先生、生徒になめられ過ぎですよ。ガツンともっと男らしく言わなきゃ。だから25才にもなって彼女もできないんですよ」


「それより、汚いんで出て行って下さいよ」


ここでも、僕のことを心配してくれる仲間はいない。


「今井先生、今日はもう帰って構いません。あなたが居なくても、さしあたり影響はありませんからね」


校長に言われ、職員室を出た。


顔を洗おうと、トイレに向かう。


顔の血は取れたが__。


真っ赤に染まった出席簿を見下ろす。


初めて黒い出席簿を手にした時の喜びが、昨日のことのように蘇ってくる。


こんなはずじゃ、なかった。


描いていた教員生活は、もっとやり甲斐があって充実したものだったはず。


それなのに、あんなクラスを押し付けられて。


僕が名前を呼んでも、誰1人として応えてくれない。


返事すらしてくれない。


こんなはずじゃ__。


涙が、頬を伝っていく。


理想とはかけ離れた自分が、声を押し殺して泣いていた。

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