それぞれの交差点
それぞれの交差点




慌ただしく、けれど充実した忙しさで夏が過ぎて、少しだけ落ち着いた、前向きに迎えた秋も、そろそろ終えようとしていた。

11月の最後の土曜日、わたしは、お気に入りの画材屋で必要なものを買い足したあと、神楽(かぐら)さんとの待ち合わせに急いでいた。

クリスマスが近付いてきてる街は、キラキラして気分が高まる。
全体的に浮かれた風景をみんなが許しあっているようで、わたしは、街中に優しさが混ざっている気がした。

そんなクリスマスの華やいだ景色に、傷付いた思い出を重ねたこともあったし、その傷が完全に消えてくれたわけでもないけれど、今は、それも過去のことだと振り返ることができる。

そう思えるようになったのは、すべて、彼のおかげだった。

彼のことが頭に浮かぶと、早く会いたくなってしまう。
けれどわたしは、待ち合わせの前にあるところに寄り道していた。

今日はこのあと大きな予定があって、本来なら画材屋に寄る時間はなかったのだけど、待ち合わせ相手である神楽さんから少し遅れると連絡があり、わたしも寄り道することにしたのだ。

大学時代から気に入って使っていた消しゴム、クロッキー帳を店オリジナルのペーパーバッグに入れてもらい、ちょっとした幸せ感を手に、わたしは交差点で信号待ちをしていた。










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