ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「よし。そういうことなら、恭子。今日はもう帰れ」

「え?でもまだ上がる時間には早いです」


時刻は16時半。

仕事もない訳ではない。

でも安藤さんは私のマフラーとコートを取り、無理矢理手渡してきた。


「実松を大事にしろって言ったばかりだろ。せっかく迎えに来てくれたんだ。急ぎの仕事がないならふたりの時間を大切にしなさい。これ、上司命令」


そう言われたら断れない。

平井さんの方を向けば、ニコリと微笑み、ひとつ頷いてくれたし。


「では、お言葉に甘えて。でも、こういうのは今日限りにしますからね。実松くんも、そのつもりでいてね」


公私混同はしたくない。

ピシッと言うと、実松くんも安藤さんも笑って頷いた。


「じゃ、お先に失礼します」


安藤さんと平井さんに見送られ、実松くんと並んで外に出る。

真冬の風が肌を刺す。


「うぅ。寒い」


マフラーを鼻の下まで引き上げる。


「それじゃ、前が見えないだろ」


実松くんに笑われても、下げる気にはならない。

むしろ顔を隠す口実が出来て良かった。

いざ恋人同士となると、照れくささがある。

それに急に職場にやって来て、勝手に安藤さんに交際宣言したことに若干、機嫌を損ねていた。

それが伝わるように、顔をあえて隠す。


「悪かったよ」


無言の抗議は、実松くんに伝わった。


「仕事終わるまで待ってようかと思ったんだけど、待てなかったんだ。ごめんな」


素直に謝られると何も言えないものだ。

この話はこれまでにして、これからどこに行くのか、それを聞こうとした。

その時。

< 77 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop