私はあなたのストーカーです


「あれだよ」


てっきり小さめのアパートみたいなのを想像していたのだけれど。


「調べてみたんだけど、2LDK」


駅近という立地も良ければ外観も綺麗な高層マンションに、言葉を失ってしまった。


どうして二年目の教師である先生が、こんなとこに住めるの。絶対に家賃高いよね。


教師の所得って、そんなに多いの?


まさか。


(ひとり暮らしじゃ、ないの?)


「先生って。結婚してるのかな」
「さあ」
「…………」
「どうする。ここが、くりりんとお嫁さんの愛の巣だったら」


モヤモヤとした黒い感情が胸を渦巻く。


左手の薬指に指輪がついてないから安心しきってた。

既婚者なんて考え、なかった。


「やだよねー。ぶっ壊したくなるよねー?」
「そんなことは……」


ないって、言い切れない。


先生が。

私じゃない誰かと幸せになるなんて。


――イヤだ。


「イジワル言ってごめん。くりりんは、独身だよ」
「え……ほんと?」
「主任と話してるとき、それっぽいこと言ってた。さすがに上司にすぐバレる嘘はつかないでしょ」
「そっか」


藤ヶ谷くんの言葉に胸を撫で下ろす。


「まあ、同棲してる彼女がいないとも限らないけど」
「……!」
「どう見てもモテる人間だよね。いない方が不思議」


知っていることをおもしろおかしく誤魔化して、私に期待させたり落胆させたりしてくる藤ヶ谷くんに苛立ちを覚える。
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