アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「えっ……ヤダ、並木主任は座っててください。私がしますから」
でも並木主任は、このくらい自分でできると唇を尖らせ、手際よく味噌汁をお椀に注いで冷めた唐揚げをレンジで温めている。
並木主任って、意外とマメ男君。彼女と居る時も一緒に料理とかしてるのかな?
勝手にその場面を想像して落ち込んでしまう。
「ほら、用意できたぞ。来いよ」
「あ、はい……」
翔馬のことなどすっかり忘れ席に着くと、並木主任が温めてくれた唐揚げを食べ始める。でも、彼女のことが気になって食事を味わう余裕などない。
「並木主任、この前言ってた人生を左右する重大な決断って、あれはどうなったんですか?」
「んっ? あぁ、そのことなんだが……」
少しだけ表情が硬くなった並木主任が箸を止め、上目遣いで私を見た。
「予定より早く東京に戻ることになった……」
「えっ? 早くって?」
「……年内だ。十二月二十五日に引っ越す」
十二月二十五日……クリスマスに並木主任が居なくなる? そんな……もう一週間しかないじゃない。
会社の異動がある三月まではこっちに居てくれると思っていたから、驚きで言葉が出てこない。
「本当は、翔馬の受験が終わるまで戻るつもりはなかっんだが……そういうワケにもいかなくなった。でもな、心配するな。受験までの勉強のスケジュールは出来上がっている。残りの一週間、俺も死に物狂いで教えるよ」