アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

結局、私はその衝動に勝てず、唯に全てを話してしまったんだ……


『ちょっ……情報漏洩の証拠を掴む為に山辺部長に探りを入れてるって……それ、ヤバくない?』


唯は、素人の私が探偵の真似ごとをして山辺部長にバレたらどうするんだと声を荒げる。


「唯は私のことを心配してそう言ってくれてるんだよね?」

『当たり前じゃない。山辺部長だって軽い気持ちでそんなことしてるワケじゃないでしょ? 会社に証拠を掴まれたら間違いなくクビ。下手すりゃ訴えられるかもしれないんだよ。

紬が並木主任の仲間だってバレたら、山辺部長は自分の身を守る為に何をしてくるか分からないじゃない。危険な目に遭う可能性だってあるんだから』

「そう……だよね。自分の大切な人が危険な目に遭うかもって思ったら、協力しろだなんて言えないよね……」


本当に私を大切に思ってくれているなら、平気で私を巻き込むようなこと、するかな?――これが私をモヤモヤさせていた違和感の正体。


「私ね、八神常務に抱かれたの……彼女になったんだよ」


私が何を言いたいのか、長い付き合いの唯には分かったようで、少しの沈黙の後『そういうことか……』と落胆の息を吐く。


「ねぇ、唯、教えて? 私、八神常務に利用されているのかな?」


しかし唯は私の問には答えてはくれず『こっちに戻ってくれば?』と言ったのを最後に押し黙る。


唯も私が利用されているって思っているんだね。


モヤモヤとした違和感は、やり場のない悲しみに変わっていた――

< 215 / 307 >

この作品をシェア

pagetop