フルール・マリエ


牧さんは既に具体的に着てみたいドレスがいくつかあるようで、今日はそれを用意している。

どれもプリンセスラインで裾にレースがふんだんに使われた華やかなドレスばかりだった。

ただ、色には迷いがあるようで、様々な暖色系をまずは希望していた。

牧さんを試着室に案内する際に、新郎は笑顔で手を振ってそれを見送っていた。

「優しそうな人じゃない」

「それが取り柄の人なんです。優しい人がいい、なんて誰でも言う言葉は言いたくなかったんですけど、大事なことなんですね。あの飽きない顔も付き合ってる時はつまらないと思っていたのに、一緒に住んでると愛しくなってくるんですよ」

言葉は多少辛辣だが、牧さんなりに考えた結果、望んでした結婚なんだろうことはわかった。

何がどうなって男女が結婚するのかは、わからないものだな。

ここに来店する何組もの新郎新婦にも、それぞれに違う馴れ初めが存在して、それは奇跡にも近いことが起こった結果で結婚することになった新郎新婦もいたことだろう。

そう思うと、その新郎新婦に出会える私もまた、奇跡のような確率なんだろうな、と感慨深い。



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