君の手が道しるべ
悪魔、襲来。
大倉主査は翌日から仕事に戻ってきたが、表面上はまったく以前と変わらず――あまりにも変わらなさすぎて、私はもうどうしたらいいのかわからなかった。

 必要以上に避けることも、近づいてくることもなく、いつも通り淡々と接してくる大倉主査。

 会社にいる以上は当たり前のことなのに、それがなぜか落ち着かなくて、私は気づくと彼の姿を目で探すようになっていた。

 太田さんのお宅に伺ってから、二週間が過ぎたある日。
 
 急な案件対応で帰りが遅くなってしまった私は、いつものバーに向かった。最近あまり食欲がない。でも、なんとなくお酒は飲みたい。健康面からも精神衛生上もよくないとは思うけれど、その日はどうしてもひとりでぼんやりとお酒が飲みたかったのだ。

 いつものバーの、いつものカウンター席に座ると、マスターが私の好きなカクテルをすっと出してくれる。居心地のいい場所におさまって、好きなお酒を飲んでいると、ここ最近のいろいろな問題から、すうっと解放されるような気がした。

 その時だった。

 バーの重いドアがゆっくりと開いて、誰かが入ってきた。
 薄暗い照明にぼんやりと浮かんだその人が、ゆっくりと私に近づいてくる。それが誰だかわかった瞬間、私は背筋が寒くなるのを感じた。

「……お疲れ様です、永瀬さん」

 フリルのたくさんついたブラウスに、少し丈の短いスカート。いつもはいているのとは違う、高いヒールのパンプス。ピンクのショルダーバッグを肩にかけ、やや重心を右足に乗せて、腕組みしながらこちらを見ている。

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