君の手が道しるべ
「邪魔ばっかりしてんじゃん! 太田さんの3億だって、大倉主査だって、わざわざ私の狙ってるとこばっかり横取りしていい気になってるでしょ! わかってるんだから! あんたが大倉主査のこと好きなの! いっつも目で追って、いい年してバカじゃないの? 大倉主査があんたみたいな女を好きになるはずないんだから!」

 そこまで一気にまくしたてて、梨花は立ち上がった。怒りに燃えた両目から、青い炎が噴き出しそうだ。

「マジで目障りだから! 邪魔なの! これ以上私の邪魔しないで!」

 最後のほうは甲高い悲鳴のようになった。

 それだけ言ってしまって気が済んだのか、梨花はさっそうときびすを返してドアから出て行った。

 ひとり取り残された私に、マスターが苦笑しながら声をかける。

「……台風みたいな方ですね」

「……確かに」私も苦笑いしながら答え、それから「すみません。お見苦しいところ見せちゃって、店の雰囲気壊しちゃって」とあやまった。

 一方的に怒鳴っていたのは梨花なのだけど、大人としてはあやまらないわけにいかない。

 それに、今も、店の中には梨花の怒りの波動が漂っている。

 でも、マスターはふふっと笑って、それ以上は何も言わずに私から離れていった。

< 75 / 102 >

この作品をシェア

pagetop