君の手が道しるべ
史子のおかげで、私は事態の大きさをようやく飲み込めた。

「せっかくのプロポーズだし、お祝いしてあげるのが親友としてはスジだと思うんだけどさ」

 2杯目のカフェオレを飲みながら、史子はおどけたように言った。

「結婚って、当人たちだけの問題じゃないからね。なんやかや言って結婚は家と家との結びつきだから、家柄って実はすごく問題なのよ」

「……なんでそんなこと知ってるの」私は口をへの字にして反論する。「史子だって独身でしょ。結婚経験ないじゃん」

「経験はなくても、情報はある」私の反論をあっさりとかわして、史子が言った。「私の幼なじみがね、それだったの。周りは玉の輿だってうらやましがったけど。実際は、お姑さんに箸の上げ下ろしまでケチつけられて、そのたびにやれ家柄がどうだの、育ちがどうだのってネチネチやられてさ」

「それで……その人はどうしたの?」

「離婚した」

 史子の言葉に、私の胸がにぶく痛んだ。

「ダンナはいい人だったわよ。優しくて思いやりがあってね。だから幼なじみも頑張ったわよ。お姑さんに気に入られるようにって」

 ため息をひとつもらし、史子は私を見た。

「だけど結局は離婚した。いくら本人が努力しても、家柄の違いっていかんともしがたいもんよ。——かわいそうだったわよ、最後にはすっかり疲れ果てちゃって、別人みたいに痩せちゃって。おまけにダンナが優しかったもんだから、なおさら本人も離婚に踏み切れなくてさ。最終的には幼なじみの親が出て行って、頼むから縁を切ってくれってさ。そうしないと相手の家の体面を汚すとかなんとか言って。どう考えたって悪いのはお姑さんなのにさ」

「……そうなんだ……」
 でも同じことが私に起こるとは限らないでしょ、と言い返そうとして、私は言葉を飲み込んだ。
 反論しようとした……ってことは、私、大倉主査のプロポーズを受ける気になってた、ってことなのか?

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