不埒な先生のいびつな溺愛 〜センシティブ・ラヴァーズ〜
久遠くんはテーブルの上で両手を硬く握りしめ、まるで祈るようなポーズで言葉を続けた。

「もう何も言わないっ。お前に何も求めないから……嫌なら忘れてくれ。今のままでいい。そばにいてくれるだけでいいっ……」

そういえばその話の途中だった。そこで私が怒り出したのでは、さすがに彼は傷付いただろうか。

……でも言っていることはちぐはぐだ。少なくとも、私は今のままじゃ嫌だ。好きな人に女として見てもらえない苦痛を感じながら恋人を名乗るなんて、苦行すぎる。

かといって、これは潜在的なもので、彼にどうこうできることではない。もっと欲情してくれなんて言ったところで不可能だ。

「……本当に怒ってないよ。久遠くんといるのが、少し、疲れただけ」

対面の席で顔を上げた彼は、今日一番、切ない顔をしていた。
こんなことを言ってごめん。傷付けてごめん。でも私も傷付いてるから。

彼は何も喋らなくなり、それから私も黙っていた。この重い空気は、付き合う前にはよくあったことだ。

久遠くんの気持ちは私とは違う、おそらく執着心が生み出した家族愛に近いものなのかもしれない。いや、執着心そのものと言ったほうがいいのかも。その愛はどんなに大きくとも、私を満足させてくれはしない。

それでも私は彼を受け止めてあげたい。もう離れられないほどに、久遠くんのことが大好きだ。愛の種類が違っても、何とか擦り合わせていきたいと思っている。

しかし、私が色々諦めてそれを理解するには、少し時間が必要なのだ。
ごめんね。分かって、久遠くん──……
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