この世に生まれてくれてありがとう〜形のない贈り物〜
「お母さん、ありがとう。俺を産んでくれてありがとう」

誠の目から涙があふれる。

「ごめんね、いなくなってしまってごめんね。でもね、私はあなたのことが大好き。そのことを忘れないで」

母が誠の涙を拭う。

なぜ覚えていないんだろうと誠はもどかしくなった。母がくれた大きな愛情を、どうして忘れてしまったのだろうと悲しくなった。

しかし、母が教えてくれて嬉しいという気持ちもあった。こうして会えないはずなのに、出会えたのが嬉しいかった。

「誠、あなたも一生をかけて大切な人たちを愛してね。……お願いよ」

そう言うと、母の姿が一瞬で消えた。

誠は驚いたが、悲しさはなかった。温もりがいつまでも、胸に残っているからだ。

そして、両親の話を聞いてみようと心に決めた。



あれから数年後、誠は今、父になろうとしている。

愛する人を誠も見つけた。

映画を見に行ったり、カフェでお茶をしたり、カラオケで歌ったり、楽しい思い出が増えていく。

喧嘩をしてしまった時は、二人が好きなパスタを作って仲直りをした。身内が亡くなり悲しい夜は、ずっと一晩中抱きしめあった。

そして、愛しい人のお腹の中で、小さな命が少しずつ大きくなっていった。
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