ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「どうして? 受かる可能性は低くても、やるだけやった方がなにかを残せたかもしれないのに」

「それはそうなんですけど……。どんな事情でも、私が時間を守れなかったのは事実なので。そのときは、ご縁がなかったと思うことにしたんです」

「真面目にも程があるな」

 颯馬さんは、クックッ……とおかしそうに肩を揺らす。

「だからこういう男に捕まるんだ」

 少し潤んだ瞳がきゅっと細められ、私を見据えた。思わず心臓が跳ねる。

「小春。君は自分を犠牲にしすぎる。たまには自分を甘やかしてもいいんじゃないか?」

 甘く囁く颯馬さんの手が、私の髪を優しくなでた。わずかに伝わってくる感触に、痺れるような陶酔を味わう。

「甘やかすって言われても、どうすればいいのかよくわかりません……」

「じゃあ、俺が小春の分まで可愛がろう」

 私が短く驚きの声を上げた瞬間だった。
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