三十路令嬢は年下係長に惑う
能力として突出しているのは慎夜のように思えるのだが、テンションが平均的ではなく、偏りが大きいいゆえに社長には向かないと父は考えているようで、平均的に全方位に気を配る事のできる真昼が社長を、瞬発的に才知を発揮する慎夜を副社長に据えたのはよいバランスだったと水都子も思っている。

 そうした、会社の未来図に、水都子は含まれていない事に、少なからず寂しさは感じていたけれど。

 妹ほどではなくとも自分の身を食べさせていきたいと外へ働きに出たものの、結局、父の奨めで見合いをしたのは、自分でも、仕事において限界を感じていたのかも知れない。

 三十路過ぎの社長令嬢に逆玉の輿狙いで近づいてくる者は多かったが、水都子が父の会社においてポジションが無い事を知ると皆離れていった。そんな事の繰り返しに嫌気がさした頃、ようやく決まった相手ではあったが、まさか式の当日になって逃げられるとは思わなかった。

 けれど、そうした経緯の後、結局妹が社長に就任した後、望んで親族の会社に席を求める事になったのは、なんとも皮肉めいていたが。

 鈴佳の話を聞くに、自分はもしやバランスをとるためにシステム部門に配属されたのでは、と、邪推したくなった。慎夜の息のかかった係長を身近で把握する、そのあたりは、改めて真昼に問いただしたいところではあった。

 結局、水都子と鈴佳は昼休み終了ギリギリまでを「みなとや」で過ごし、今後の方向性などについてもざっくりと決めて店を出た。

 基本、窓口は水都子が担当し、それをエスカレーションする形で鈴佳が処理するという事。社内の人間や業務を覚える為にも水都子は自分がまず前に出ると主張した。鈴佳は少しばかり心配そうにしていたが、ともかくやってみましょう、と言う水都子に対して反対する事は無かった。
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