今でもおまえが怖いんだ
牛丼屋はガラガラで、私たちは出入り口付近の二人掛けの席に座ることができた。
彼のお言葉に甘えて私は壁際の席に腰を下ろす。

豚と牛で迷うんだよねと私が言うと、分かると直樹君も頷いた。

「俺前回ねぎ玉だったから今日普通の牛丼……。あ、でもキムチ美味しそう」
「そっか、明日もう土曜日だもんね。キムチ食べれる日だ」

私もメニュー表を覗き込みながら少し迷ってしまう。
牛丼屋に入るのは結構久しぶりだったから、牛か豚かトッピングもまた迷ってしまう。

「前回なおき君が頼んだのが」
「あ、ネギ玉豚丼」
「じゃあ私それ」

そう私が決めると、直樹君は早いなあと笑いながらまたしばらく迷う時間に入った。

テーブルに肘をつく彼の手首にはアディダスの腕時計が巻かれている。
普段から華美な服装は一切しない彼だけれど、ちょっとした小物につい目が行ってしまうことが多々ある。
去年の冬に巻いていたバーバリーのマフラーも、なんだか少し可愛かった。

マイペースで独特でちょっとだけ大人びているところもあって、けれど子どもっぽい一面もあったりして。

きっと一般的などこにもでいる普通の男の子のはずなのに、その普通は私がどれだけ願っても得られなかったものだったから。憧れてしまう。
< 15 / 78 >

この作品をシェア

pagetop