いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
一週間経ち、祐子はメールで彩香に次のイラストの依頼をした。前回と同様、参考資料、サイズなどの規格、途中でチェックする期日などを記載したスケジュール表も添付されていた。了承したとの返信メールを送り、資料をダウンロードしながら彩香は、自分がこのルーチンワークに慣れてきていると感じた。
「デザイナーさん、ご苦労様です」
 夕食後の片付けをした後ダイニングの片隅でラップトップを開いていると、ビールの缶を取りにキッチンに入ってきた俊介が声をかけた。彩香はふっと笑った。
「まだまだ駆け出しですから」
「いやいや」俊介は彩香のそばに腰掛けた。「正直なところ、そんなうまい話があるかと思ってたんだ。でも時代は変わってるんだな」
 彩香はキーボードを叩く手を休めた。
「俺みたいに会社勤めをしていると、これしかないと思い込む。時には自由に自分のやりたいことができれば、と思うこともある。でもすぐに笑い飛ばすだけだ。君は自分の夢の実現に進んでいるんだ、羨ましいよ」
「…」
「頑張ればいい」
「ありがとう…。あなた、ごめんなさい。私は好き勝手なことをして」
 彩香が言うと、俊介は笑顔でビールを冷蔵庫から取り出して居間へ歩いて行った。
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