いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
彩香がその小さなカフェに入って見回すと、窓際の席にすでに祐子は座っていた。彩香に気がつくと手を振った。ショートカットの彼女の耳元にはイヤリングが日光を浴びて光っている。小さな宝石を連ねた細い糸のような、おしゃれなイヤリングだ。
 若く見える…
 祐子に近づきながら彩香は思った。彼女は彩香と同い年の28歳で、夫とともに小さなオンラインショップを立ち上げたと聞いている。彩香も祐子もまだ子供はいないが、フルタイムで働いているせいで祐子はこんなに若く見えるのだろうか。
 彩香がコーヒーを注文し終わると祐子は早速ビジネスの話を始めた。大学でのサークル活動の時もいつもテキパキした様子だったので、彩香は驚かなかった。
「早速だけど、彩香はブログをやってるね。お料理の写真とか見てるよ」
「ありがとう、時々だけどね。見かけがいいからそのまま食べるのはもったいないな、と思った時とか」
「お料理の配置とか、センスいいなあって思ってたのよ。それに、時々イラストがつけてあるし。お魚とか、お野菜とか」
 それを聞くと彩香は笑顔になった。
「ふふっ。それはオマケ。昔から遊びで絵を描いたり、展覧会巡りをしたりするのが好きだったの。…今はもう展覧会に行ったりする余裕はないけどね。絵を描いたり、本格的なことは全然考えなかった。そんなの大変だしねえ…。でも、今はブログとかあって、それでちょこちょこっと出すのは平気よ」
 祐子はうなづきながら聞いていたが、彩香がコーヒーカップを持ち上げたところで言った。
「ねえ、ちょっとしたイラストを描いてみてくれない?うちの会社用に」

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