小さな王と美しき女神

春の訪れを告げる、水仙や鈴蘭が風に揺られ、美しく咲いている。

耳を澄ませば、遠くから聞こえる、会話をしているような鳥のさえずり。

少し寒いくらいのそよ風が気持ち良くて、目を瞑って全神経を集中させて、心地よさを思う存分味わった。

大きく息を吸って、世界中の空気を吸い込む。朝の空気は新鮮でおいしい。
「うーん!今日もいい風!」

あまりの心地よさに、我を忘れて一伸びしていると、
「マドリード、何してるのー!?早く!!こっち手伝って!」

「はーい!今行きます!!」

「もう!何処いってたの??今日は特に忙しいから、猫の手も借りたいぐらいなのに。ぼうっとしてる暇ないよ!!」

「はい!すみません!」

「分かったらさっさとやる!」

私、ファン=バンリー=マドリードはこの広い宮殿で王様のお母様に当たる、ヴィンテッド=ロレーヌ=ド=カトリーヌ様に仕えている。その職務としては、主にカトリーヌ様の身の回りのお世話や、庭の手入れなど。

掃除だけでもこの広大な宮殿にはゲストルームや大広間、寝室、クローゼットなど、数えきれないほどの部屋があり、掃除係だけでも何十人もいる。その他にも料理係や、宮殿を仕切る長や、奥方様のお身体に合う、洋服を調達する専門係もいる。

しかし、他の仕事も兼ねている人がほとんどなので、こうして皆で手分けして手伝っているのだ。


そもそも、何故私がカトリーヌ様のお世話をすることになったかというと、何故かカトリーヌ様に気に入られたからだ。

偶々、庭の手入れをしていた所、カトリーヌ様にお会いし、少しお話をすると、熱心に働く様子は素晴らしいと誉められ、世話役をしてほしいと頼まれのだ。

私なんかがおこがましいと、思ったのだが、勿論、一庶民の私なんかが断れるはずも無く、お仕えすることになったのだ。
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