さざなみの声
忙しい日々と新しい人生

1


 東京へ戻るまでの時間、束の間のドライブ気分で過ごした。

「帰ったら忙しいからな。せめて今はドライブを楽しもう」

「うん。そうね。目が回るくらい忙しい時間が待ってるものね」

「そういう事。安全運転で楽しいドライブにしよう。お昼は何を食べようか? 寧々は何がいい?」

「美味しい物なら何でもいいわよ。でもその前に休憩しようね」

「そうだな。次のサービスエリアで休もうか?」

「うん。シュウ疲れてない? 昨夜は良く眠れたの?」

「あれからすぐに眠ったよ。寧々の家は、すごく落ち着ける。庭も家の造りも部屋まで純和風の良さが、とにかく心地好くて。木造のせいなのかな? お風呂も檜風呂だったし良い香りだった。つくづく日本人なんだなと今更ながら思わされたよ」

「そう。気に入ってもらえて良かった」心からそう思った。

 サービスエリアとはいえ外でお茶したり食事するのは久しぶり。何だか、とても新鮮な気分でシュウと向かい合っている気がした。



 そしてシュウの家に着いて……。

「ただいま」 

「こんにちは。お邪魔します」

「いらっしゃい。疲れただろう。みんな待ってるよ」

 珍しくシュウのお父さんが迎えてくださった。母から託ったお土産を抱えてリビングに入ると……。

「いらっしゃい。お疲れさまでしたね」
 とお母さんの笑顔。

 初めてお目にかかる、お兄さんご夫妻もいらした。

「初めまして。寧々と申します。よろしくお願い致します」

「あなたが寧々さん。そうか。シュウが大切に想っていた人なんだね」

「本当に。日本に置いて行ったら相当後悔したでしょうね」

 お兄さんご夫妻は顔を見合わせて笑顔で温かく迎えてくださった。

「で、どうだったの? 寧々さんのご両親は?」とお母さん。

「結婚を認めてくださったよ。昨夜はお宅に泊めていただいた。お父さんとお酒も飲んだし、とても楽しく過ごさせてもらった。お母さんの手作りの料理も本当に美味しかったよ。くれぐれも、ご両親に宜しく伝えてくださいとお土産のお礼と、これ寧々のご両親から託って来たよ。とても歓迎してくださった」

「そう良かったわ。これで安心した。寧々さんはもう家の家族なのね」

「まだ区役所には、これから行くんだけど」とシュウ。

「じゃあ、今から二人で婚姻届を出していらっしゃい。もう出すだけになっているんでしょう? みんなでお祝いのお食事をしましょう。夏美さん、腕の見せ所よ」

 二人で区役所に婚姻届を出しに行って名実ともにシュウの奥さんとして相沢家の一員として相沢寧々としての私の人生が、この日スタートした。
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