さざなみの声


「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ。それから、ここの後任の店長なんだが……。任せられそうな人がいないだろうか。今、ここにはバイトの子が多いんだろうね」

「そうですね。学生のバイトがほとんどですから……。寧々ちゃんみたいな子なら……」
 つい名前を出してしまったことを少し後悔していた。でも良い機会かもしれないと店長は考えた。

「寧々ちゃん、ここを辞めて誰でも知っている大手のフォーマルウエアの会社でデザイナーとして仕事をしていたんですよ」

「そうか。夢は叶ったんだね」

「えぇ、そうです。その後、結婚した商社マンのご主人と海外勤務になって……」

「そうだったのか。ありがとう。教えてくれて感謝してるよ」

「いいえ。とても幸せそうですよ。寧々ちゃん」

「うん。良かったよ」

 津島部長の表情は安心しているのが手に取るように分かった。
 伝えて良かったんだと店長は胸を撫で下ろした。

 二人の間柄がどういうものだったのか詳しくは知らない。寧々ちゃんにも聴かなかった。
 でも真剣に心を通わせ合っていたのは間違いないと思っていた。これ以上は言わない。言えない。それぞれの幸せのためにも……。

「店長、きょうは飲みに行くか? ちょっと気の早い祝杯だ」

「はい。お付き合いしますよ」

 この夜のお酒は部長にとっても、店長にとっても嬉しいお酒だったことは言うまでもない。
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